慢性前立腺炎
このページでは慢性前立腺炎の症状・診断・治療についてご紹介しています。
はじめに
前立腺は膀胱の出口にあるくるみほどの大きさの臓器であり、精液の一部を作っています。
この前立腺に炎症が起こることを前立腺炎と呼び、4つのタイプに分けられます。
細菌が尿路から感染し前立腺の中で強い感染を起こすと急性前立腺炎とよばれる発熱、排尿時痛、頻尿といった激烈な症状を呈する状態になります。
細菌がじゅくじゅくとくすぶるように感染する状態は慢性細菌性前立腺炎と呼ばれ、発熱はみられませんが、頻尿や残尿感が続くことになります。これらの細菌性前立腺炎は抗生剤で治療することになります。
多くの前立腺炎は非細菌性の慢性前立腺炎で、痛みの場所がよく分からないこともあり、骨盤痛症候群とも呼ばれています。
細菌が原因ではないために抗生剤が効かず、なかなか症状の改善がえられないため逆にやっかいです。比較的若年者(10代後半~40代)によくみられます。
舟橋院長はピッツバーグ大学と名古屋大学で慢性前立腺炎について長年研究に携わってきた日本でも数少ない泌尿器科専門医です。このページでは慢性前立腺炎について解説していきます。
症状
排尿時の痛みや残尿感、頻尿が主な症状です。
また会陰部や精巣、下腹部、鼠径部、肛門、腰部の痛みもよくみられます。ほかに射精時の不快感を訴えられる方もみえます。
原因
前立腺に慢性的に非細菌性の炎症が起こる機序としては以下のものが想定されています。
微生物感染
感染が消失したあとも長期に炎症が続くことがあります。
血流障害
高血圧や加齢により骨盤内臓器の血流が悪くなり、炎症が起こります。
男性ホルモンの低下
男性ホルモンが低下すると前立腺に炎症が起こることが動物実験で確かめられています
自己免疫
免疫細胞が前立腺内の異物を攻撃することで炎症が起こります。
尿の前立腺内への逆流
排尿時に尿が前立腺内へ逆流すると、炎症が起こります。前立腺肥大症の方でしばしば見られます。
治療
生活習慣の改善
長時間の座位や会陰部への圧迫により骨盤の血流が悪くなりますので、30分ごとに立ち上がって体操をしたり、円座を使用したりすることが有効です。ほかに定期的な運動、禁煙、節酒、カプサイシンなど刺激物を避ける、などがすすめられています。
抗生物質
急性発症で尿中白血球が多い場合には細菌感染の可能性も考え検討します。前立腺への組織移行性が高いニューキノロン系抗生物質がしばしば使われます。
鎮痛薬
痛みが強い場合に消炎鎮痛剤や神経障害疼痛治療薬を用います。
前立腺肥大症治療薬
α1遮断薬やPDE-5阻害薬は前立腺の平滑筋を弛緩させたり、骨盤臓器の血流を増やす働きがあります。
植物製剤
セルニルトンやエビプロスタットといった植物製剤や、牛車腎気丸や八味地黄丸といった漢方薬が用いられます。
慢性前立腺炎は原因を症状から推定するしかなく、患者さん個々の状態をみて治療薬を判断します。
すぐに治療効果が現れる患者さんもおられますが、長期間の治療が必要になる患者さんもおられます。また一度よくなっても再び悪くなったり、なかなかすっきりと治ることが難しく、とても嫌な疾患ですが、地道に治療を継続することが大事です。
当院では泌尿器科だけでなく内科的側面からも状態を評価し、しっかりとサポートしていきます。
舟橋院長の前立腺炎に関する研究論文
Funahashi Y, O’Malley KJ, and Yoshimura N., et al.
Upregulation of Androgen-Responsive Genes and Transforming Growth Factor-β1 Cascade Genes in a Rat Model of Non-bacterial Prostatic Inflammation.
Prostate 2014; 74(4): 337-45.
Funahashi Y, Wang Z, and Yoshimura N., et al.
Influence of E. coli-induced Prostatic Inflammation on Expression of Androgen-Responsive Genes and Transforming Growth Factor Beta 1 Cascade Genes in Rats.
Prostate 2015; 75(4): 381-389.
Funahashi Y, Majima T, and Gotoh M., et al.
Intraprostatic Reflux of Urine Induces Inflammation in a Rat.
Prostate 2017; 77(2): 164-172.
Funahashi Y, Takahashi R, and Yoshimura N., et al.
Bladder overactivity and afferent hyperexcitability induced by prostate-to-bladder cross-sensitization in rats with prostatic inflammation.
J Physiol. 2019; 597(7): 2063-2078.