消化器がん
このページでは主な消化器がんの種類・症状・診断・治療についてご紹介しています。
消化器がんとは
消化器がんは、消化器系(胃、食道、大腸など)で発生するがんの総称です。
がんは、悪性腫瘍とも呼ばれ、遺伝子が傷つくことによって起こります。この遺伝子にできた傷によって、細胞が無秩序に増えながら浸潤(周囲にしみ込むように広がること)したり、リンパ管や血管などを介して体のあちこちに転移したりします。
遺伝子の傷は年齢を重ねるほどに現れやすくなるため、ご高齢の方ががんになりやすい傾向があります。
消化器がんの主な症状は消化不良、腹痛、吐血、下血などです。早期段階では自覚症状がないことも多くあります。
主な原因は喫煙、食生活、遺伝などです。治療方法は、手術、化学療法、放射線療法などですが、進行度合いや場所によって治療法が異なります。
がんは、完全には防ぐことはできませんが、生活習慣の見直しや、がんの原因だと判明しているウイルスや細菌の対策などで、がんに「なりにくくする」ことは可能です。
このページでは胃がん・食道がん・大腸がんについて説明しています。
胃がん
はじめに
胃がんは、以前は日本でもっとも多いがんでした。しかし近年は徐々に減ってきて患者数で第3位、死亡数で第4位のがんです。
依然として主要ながんの一つですが、今後さらに減っていくことが予想されます。その最大の理由は社会の衛生環境が改善したことに伴い、『ピロリ菌』保菌者の割合が減ってきたことです。
胃は強い酸性環境にあるため、昔は菌がいないと信じられていました。しかし1983年に胃粘膜の中に周囲をアルカリ性にして生存しているらせん状の細菌『ヘリコバクターピロリ』が発見されました。
ピロリ菌は幼少期に経口感染で感染すると言われていますが、その後自然に消滅することはほとんどありません。また成人になってからは感染しても、すぐに消滅するようです。
ピロリ菌が感染すると胃に慢性的な炎症を引き起こします。この状態が数十年続くと、慢性胃炎(萎縮性胃炎)、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因となります。さらに萎縮性胃炎の状態が続くと胃がんが発生すると言われています。
ピロリ菌保菌者は非保菌者にくらべ胃がんの発生が10倍以上と報告されています。
昔の日本人はほとんどの方がピロリ菌保菌者でしたが、近年、衛生環境が改善したことにより30歳代では20%未満、小児では10%未満にまで減ってきていることが、胃がん患者数が減ってきている主な原因と考えられています。
また胃がん患者数以上に胃がんによる死亡者数が減っている原因として、日本では胃カメラの普及によって早期がんの段階で見つかるがんが増えているということも言われています。
胃がんのほかのリスク因子としては、喫煙、飲酒、食塩摂取、肥満が挙げられています。
症状
症状は、胃の不快感やつかえ、胸やけ、吐き気、食欲不振、消化不良、体重減少などです。
がんから出血することによって、貧血や吐血、黒色便(血便)が出ることもあります。どうして便が黒くなるかというと、胃で出血した血液は長い時間腸管を通る間に酸化するからです。
ただし、早期段階では自覚症状がないことも多く、進行しても症状がない場合もあります。
胃がんと同じ症状は胃炎や胃潰瘍でも起こります。
診断
診断方法としては上部消化管透視検査(バリウム検査)と上部消化管内視鏡(胃カメラ)の2種類があります。
1.上部消化管内視鏡検査
一般に『胃カメラ』と呼ばれるものです。当院では検査が楽な直径8mmほどの経鼻内視鏡を用いています。
前日の夜9時から絶食し、朝8時から水分も控えます。病院に着いたら検査着に着替えます。鼻から麻酔のゼリーを吸っていただき、胃の中の粘液をきれいにする薬を飲んでいただきます。左を下にしてベッドに横になります。鼻の穴から胃カメラを挿入していき、十二指腸の入口、胃、食道に病変がないかを観察し、写真を40枚ほど撮影します。がんの疑いのある病変があった場合、1mmほど組織を採取し、顕微鏡検査に提出します。何も病変がなければ約5~7分ほどで検査は終了します。検診では、撮った画像は後日、別の先生に確認してもらいます(ダブルチェック)。
2.胃透視検査
まず発泡剤を含んだバリウムを飲んで、食道の通過を観察します。続いて検査台に横になり、右を向いたり、左を向いたり、うつ伏せになったりして、胃のしわをレントゲンで確認します。検診では、胃カメラと同様にダブルチェックします。
3.CT、PET検査
進行がんやリンパ節転移、周囲臓器浸潤、遠隔転移の評価に有用ですが、早期がんの検出はほとんどできません。胃がんと診断された方が病気の広がりを確認するのに用います。
4.ピロリ菌抗体検査
ピロリ菌に感染しているかどうかは血液検査で抗体の有無を測定します。もし感染していることが分かったら、胃カメラにて胃がんがないことを確認のうえ、60歳未満の方は抗生剤を飲んで除菌することをお薦めします。60歳以上の方は、胃がんの予防という観点では手遅れかも知れません。(胃炎の症状がある方ならば60歳以上でも除菌の効果が期待できます。)
5.ペプシノゲンⅠ、Ⅱ
胃の粘膜が産生する酵素のひとつです。萎縮性胃炎が進行すると、特にペプシノゲンⅠの産生が低下するため、ペプシノゲンⅠの値や、ペプシノゲンⅠ÷Ⅱの値が低下します。ピロリ菌抗体値とペプシノゲン値を組み合わせて、胃がんのリスク分類ができます。高リスクと診断された方は必ず2年に1回は胃カメラを受けた方がいいでしょう。
胃カメラとバリウム検査を比べるとバリウム検査のほうが楽ではありますが、早期がんの診断に向いていない、胃炎や逆流性食道炎などが分からない、検査後に便秘になることがある、怪しい所見があった場合は結局胃カメラをしなければならない、といったデメリットもあります。
検診でバリウム検査しかしていない方は数年に1回は胃カメラをすることをおすすめします。
吐血や黒色便がある場合は胃カメラをする必要があります。また胃炎症状があり、胃薬を飲んでもなかなか症状が改善しない場合も胃カメラをしたほうがよいでしょう。
予防
1.生活習慣の改善
喫煙、飲酒、食塩摂取、肥満がリスクですので、禁煙、節酒、塩分制限、ダイエットが予防につながるということになります。
2.ピロリ菌除菌
60歳未満の方であればピロリ菌の除菌をおすすめします。日本では年間150万人近くの方がピロリ菌の除菌治療を受けています。
1種類の胃薬と2種類の抗生物質の合計3剤を同時に1日2回、7日間内服する治療法です。飲み終わってから2~3か月たったところでピロリ菌が除菌できたかチェックする必要があります。この時点でピロリ菌が除菌できる確率は90%ほどです。
もし除菌できなかった場合には2次除菌と言って別の抗生物質に変えて7日間内服していただきますが、ここまですれば99%除菌できます。
薬を正しく服用しないとピロリ菌が耐性化してしまいますので、必ず指示通り服用してください。除菌が成功すれば、胃がんの発生率が3分の1に低下すると言われています。
ただし除菌治療は大腸の中の善玉菌もやっつけてしまいますので、副作用が出る場合もあります。下痢、味覚障害程度であれば最後まで除菌治療を完遂してほしいですが、発熱や腹痛を伴う下痢、粘血便、発疹などあればすぐにご連絡ください。
食道がん
はじめに
食道がんは日本の全がん患者数の2.6%を占める比較的稀ながんです。ただ他のがんと同じく高齢者に多いため、近年患者数が増えてきています。
リスク因子としては、喫煙、飲酒、肥満、熱い飲食物があげられ、リスクを下げるものとして野菜果物の摂取があげられています。
また遺伝子多型も関係しており、お酒に強い場合、お酒を飲まない方に比べてよく飲む方で3.5倍のリスクがあるのに対し、お酒に弱い場合、お酒を飲まない方に比べてよく飲む方で119倍のリスクがあると報告されています。お酒に弱い方はお酒を控えましょう。
食道がんでは、約20%に重複がん(同時または別の時期に複数の臓器に発生したがん)が起こるといわれています。
食道がんの重複がんとして多いのは、胃がん、頭頸部がん(咽頭がん、喉頭がんなど)、大腸がん、肺がんなどです。食道がんが疑われた場合や、治療が終わったあとの経過観察では、重複がんがないかどうかも調べます。
予防には、禁煙や飲酒の制限、バランスの良い食事、飲み物を熱すぎない温度にする、胃食道逆流症の治療、などが有効とされています。
症状
通常は無症状です。多くの場合、健康診断や人間ドックなどで指摘されて初めて気付きます。
しかし、脂質異常症が長期間にわたって放置されると脂質が血管の内側にたまるため動脈が硬くなり、脳梗塞や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などの原因となります。
また皮膚に脂肪の塊ができる、まぶたの周辺に黄色い斑点が現れる、肝臓に脂肪が蓄積することで肝臓の機能が低下する(脂肪肝、肝硬変、肝臓がん)、などの症状が現れることがあります。
診断
胃カメラやバリウム検査で診断します。
大腸がん
はじめに
大腸がんは、大腸(結腸と直腸)に発生するがんです。腺腫という良性のポリープががん化して発生するものが8割を占め、正常な粘膜から直接発生するものが2割ほどです。
大腸がんの主なリスク因子は、加齢、遺伝的な要因、脂肪や摂取過剰、喫煙、運動不足、肥満などとされています。(赤み肉、加工肉の摂取については賛否両論があります。)
また、遺伝性の病気である家族性大腸腺腫症やリンチ症候群、大腸の粘膜に炎症や潰瘍ができる潰瘍性大腸炎やクローン病などの病気がある方も大腸がん発症の可能性が高くなります。
予防には、食物繊維の摂取増加、野菜や果物の積極的な摂取、適度な運動、定期的な検診などが有効とされています。
症状
症状は、便通の変化(下痢または便秘、便が細くなる、残便感)、腹部の腫れや痛み、血便、下血、貧血、体重減少、疲労感などです。
早期段階では自覚症状がないことが多いです。進行すると、腸閉塞となって便が出なくなり、腹痛や嘔吐などが起こります。
大腸がんで起こりやすい症状は便に血が混じることですが、痔などの良性の病気でも起こるため、区別が難しいことがあります。
診断
1.便潜血検査
見た目では普通に見えても検査をすると、便の中にわずかに血液が混じっていることがあります。便潜血陽性の人方の3%に大腸がんが見つかります。一方、大腸がんのうち30%は便潜血陰性です。毎年便潜血をチェックすると、大腸がんの死亡率が60-70%低くなるともいわれています。便潜血検査は痛くも何ともない検査なので、毎年検査したほうがいいでしょう。
2.下部消化管内視鏡検査
一般に『大腸カメラ』と呼ばれるものです。
前日1日は検査食を食べていただき、前日の夜9時から絶食となります。検査日は病院に着いたら下剤を飲んでいただき、大腸を空にします。便がほぼ透明になったら準備完了です(通常2~4時間かかります。)。左を下にしてベッドに横になります。肛門から大腸カメラを挿入していき、小腸との境までカメラをすすめます。次に引きながら上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸に病変がないかを観察し、写真を撮影します。がんの疑いのある病変があった場合、1mmほど組織を採取し、顕微鏡検査に提出します。またポリープが見つかった場合、将来的にがん化する可能性がありますので、大きくなる前に切除ししてしまいます。
3.注腸検査
バリウムを肛門から注入し、右を向いたり、左を向いたり、うつ伏せになったりして、大腸のしわをレントゲンで確認します。大腸カメラより楽ではありますが、早期がんの検出率は劣ります。最近はあまり行われません。
4.CT、PET検査
進行がんやリンパ節転移、周囲臓器浸潤、遠隔転移の評価に有用です。また病院によっては肛門から発泡剤を注入した状態でCTを撮り、コンピューターを用いて内視鏡で観察したかのような画像を再構成できる施設もあります。